Chapter 1

熊本大震災からの復興のために
1年で新工場の建築・稼働を実現させる。

2016年4月14日、熊本県で震度7を観測する地震が発生した。その後も大きな地震が続き、8600棟以上の住宅が全壊。半壊や浸水なども含めると20万棟以上の住宅が被害を受けた。埼玉県に本社があるポラテック株式会社は、住宅の建築・販売を行うポラスグループで、木材のプレカット業界をけん引するリーディングカンパニーだ。西日本に新工場を展開するべく準備を進めていた矢先に熊本地震が発生した。震災復興に貢献するため、九州への進出を、急遽決断。4月25日、川田工業に建築の相談が来た。
川田工業はそれまでに、ポラテックの坂東工場(茨城県)、滋賀工場(滋賀県)、東北工場(宮城県)、富士工場(静岡県)の4工場と、ポラテック本社の新社屋ビル建築の実績があり、お互いに理解し信頼しており、スムーズに事が運ぶことは予想できた。しかし、問題は納期だ。「一刻も早く震災復興をサポートしたい。1年以内に工場稼働を目指す」というのがお客さまのニーズ。土地探しから建築、稼働まで1年というのは不可能に近い。でもやるしかない。こうして、ポラテック九州工場の建築プロジェクトがスタートした。

  • chapterイメージ 唐津湾(佐賀県)を望む風光明媚な工業団地「虹の松原ファクトリーパーク」の中に建つ、ポラテック九州工場(正式名:ポラテック西日本(株)佐賀工場)。ここで生産されたプレカット木材が、熊本大地震で被災した住宅の再建に役立てられている。
  • chapterイメージ プロジェクトは土地探しから始まった。立地としては申し分ない。県の海浜公園整備工事との同時進行のため、県の敷地の一部を借りて仮設事務所や駐車場に使用させてもらった。民間事業であるにも関わらず佐賀県の全面協力があり、官民一体のプロジェクトの様相となった。
Chapter 2

広大な無柱空間(60m+60mの大スパン)を
実現するトラス構造の設計手法。

候補地をいくつか視察し、7月1日、佐賀県唐津市の虹の松原ファクトリーパーク内に新工場を建てることになった。すぐ目の前に唐津湾が広がり風光明媚な環境に包まれていること、佐賀県は地震が少ない地域であることが理由だ。ただし、付近は県の海浜公園整備工事が進行中で、工事道路を共有することになる。施工の際の調整が大変であることは予想されたが、「お客さまのご要望にお応えしたい」という想いの方が強かった。
川田の設計部門の動きは早い。本来ならお客さまとの綿密な打ち合わせを行ったうえで設計を行うが、「ポラテックさんの工場には、こういう機械が入って、こういう動線が必要だから、この意匠・構造でいかがでしょうか」とこれまでの経験を活かし、素早い提案を実現。その中には、60m+60mの大スパントラス構造も盛り込んだ。それは広大な無柱空間を実現するダイナミックな構造なのだが、金額が跳ね上がってしまうため、受け入れてくれる企業はなかなかいない。それでも「やりましょう」と即答してくれたのは、お客さまが「川田工業の提案は間違いない」と思ってくれているから。その信頼に応えるため、営業、設計、工事のメンバーは一丸となってプロジェクトを進めていった。

  • chapterイメージ 60m+60mの大スパントラス構造による無柱空間を実現できるのは、川田工業のシステム建築ならでは。工作機械のラインを自由にレイアウトでき、木材のような長尺(約15m)材料の移動にも利便性が良い。
  • chapterイメージ 海風が吹く現場での作業は安全第一で進められた。長さ60mにもおよぶ屋根の材料は、現場成型により継がずに1枚もので施工。周囲に飛散物の被害が起きないよう、施工作業中にも気をつけ、片付けにも細心の注意を払う。短い工期を作業員たちの心意気で実現させた。
Chapter 3

工場は1階建て、事務所は3階建て。
事務所をどうやって工場と同じ高さに収めるか。

設計段階で、お客さまから「九州工場に限っては、事務所棟を3階建てにしたい」という要望があった。工場は1階建。事務所は3階建と別々に建てれば問題のない話だが、それでは工事金額が大きくなりすぎてしまう。かつ事務所が工場屋根の排水方向にあるため、雨仕舞において事務所を工場より高くできない。営業、設計、工事のメンバーが毎日のように議論を重ねて知恵を絞った結果、工場屋根を緩やかな勾配にして軒先の高さを出来る限り高くして、そこに事務所棟を設置することに。さらに事務所1階床を工場床よりも低くし、配管類を狭い天井内に収め、3階建の事務所をなんとか工場と同じ高さで設置することができた。
施工段階でも苦労はたくさんあった。60m+60mの大スパントラス構造という特殊な工事のため、通常のシステム建築とは工事手順が異なる。施工担当者は日々の工事計画に神経を払った。また、工事車両の通行やヤードについて、県の整備工事関係者と細かく打ち合わせしながら工事を進めなければならない。工事計画に複雑さが絡む。さらに、作業員確保のために福岡や長崎からも人員を募ったので、遠距離運転による通勤災害も心配された。それでも、「復興に貢献したい」というお客さまの想いを、川田メンバーをはじめ作業員に至るまで共有し続け、決してあきらめずに努力した結果、設計に4ヵ月、施工に6ヵ月という奇跡とも言える短工期を実現。震災から約1年後の2017年5月末に、ポラテック西日本(株)佐賀工場は竣工した。

  • chapterイメージ 3階建の事務所を、どうやって1階建の工場と同じ高さで収めるか。お客さまの要望を、川田はあきらめない。構造設計と意匠設計がそれぞれに知恵を絞って解決策を生み出し、工事が実現させた。
  • chapterイメージ ダイナミックな無柱空間。トラス梁内に配管類を収め、さらに使用空間を広げた。ここで加工された木材は、熊本地震の被災地をはじめとする九州地区の住宅の骨組みを支えている。

Project Story